オタクは世界を救えない

瀬戸口新作『MUSICA!』体験版感想、音楽は人の心を震わせられるのかどうかって話

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 ちょっと前から体験版の公表と共にクラウドファウンディング企画が発表され、まあとても喜んだ人も多いのではないだろうか的な『MUSICA!』体験版をやってみたのでその話をしようと思う。例の如くスタッフ陣にそこまで詳しいわけではないので詳しい解説は期待しないでください。

概要

 OVERDRIVEの最終作として発表された今作は、メーカーの処女作であり代表作であるところの『キラ☆キラ』の後継作として位置づけられ、ライターはキラ☆キラ以来の瀬戸口廉也
 ぶっちゃけ瀬戸口知らんやつがこんな記事を読むとは思えないけど、一応解説をしておくと、キラ☆キラは2007年発売のノベルゲー形式(テキストが全画面に出てくるやつ。ちなみMUSICA!もこれ)のエロゲで、程度の大小はあれど現状に不満を抱いたり将来に不安を感じたりしてるヤツらが音楽に出会ってバンドを組み、全国を回りながらロックンロールしてくっていうストーリー。OVERDRIVE自体がmilktubというバンドメンバーによって作られたメーカーなだけあって、曲は強い上にバンド物として非常に強度の高い世界観があり、極めつけに瀬戸口の文章が業界屈指なそれというのもあって俺じゃなくても絶賛するレベル。

 個人的にキラ☆キラが好きなのは、バンド物としてもちろんその点も強いのだけど、ロックンロールの精神性をストーリーによく反映しているところ。
 まあ俺はロックなんてやったこともろくに聞いたこともないからあれだけど、個別ルートによってはバンド自体が出てこなくなったりするのにも関わらず、そのシナリオ運びがバンド活動中のそれと同じくらい魅力的だったりして、しかも扱ってる内容が地味に暗い(個別ルートの話題は両親の再婚がどうとか貧乏な家庭がどうとか)もので、プロット自体はまったく派手でもなんでもない。主人公たちも一物抱えてるタイプではあるけど特別不幸なのかって言われるとそうでもない。デカいハコでバーンとライブやってバリバリ盛り上げてくのではなく、案外丁寧に、平凡だけどちょっと嫌な現実をロックに乗り越えてく感じがたまらなく好きっていうね。

 で、MUSICA!のあらすじも一応書いとこう
 医者の息子として医学部を目指していたが、とある事情(濡れ衣的なやつ)でエリート高校を中退になった主人公が、定時制高校に通いなおしながらもちょっとした気まぐれで市の懸賞に小説を応募する。それが副賞を取り、その縁でまったく関わったこともないバンドの取材記事を書くことになった主人公は、取材を通してそのバンドのガチフォロワーになってしまう。ただバンドのボーカルである花井氏は周囲から天才扱いされているにも関わらず虚無状態で、音楽とかマジクソと言ってバンドもやめてしまう。んで、それを引き留めようとした主人公が代わりにバンドをやることになり……という流れ。
 体験版の範囲としては、てっきりバンドをやることになって終わりだと思っていたのだけど、実際はもうちょっと続く。たぶん全部で3時間はあったし結構長い。主人公の“クソ真面目なんだけど将来に疑問を感じて迷走してる感”と花井是清の“音楽ってもうよくわかんねーや感”が体験版の範囲ではよく伝わってくるし、登場人物も一通り顔見せできたのかなとも思う。ただ主人公とキーパーソンであるところの花井がどちらも迷走してるだけあって、ここからどういう方向性で展開していくのかは正直よくわからない。

キャラクターについて

 というか、主に花井についての話。ぶっちゃけMUSICA!のテーマ性を全部こいつが喋ってるし、ストーリー進行も大抵こいつが関わってる。花井がいないとマジどうしようもない今作において、花井がちゃんと面白いキャラになってるのがもう作品全体の評価を底上げしてる。

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 あと言ってなかったけど、立ち絵とCGに関してはまだ色塗りすらされていない。いっそ新鮮味まである(というかテキスト全画面だから思ったより気にならない)
 で、花井の態度は上の画像のとおり、一貫して「音楽とかろくなもんじゃないよ」のスタンス。自分がそれなりに音楽で食っていけてるし才能があるのにも関わらず、感動する音楽はすべて周辺の環境やストーリー性のある設定で誤魔化されているだけであり、音楽単体で人の心を震わせることはできないと力説する。ただしこれは音楽に対する期待の裏返しのような気もして、主人公も言っていたけど、とやかく言いながらも音楽について哲学的なことを考えたりなんだかんだで主人公に音楽をやらせようとしたりする辺り、花井もまだ諦めきれてない感が拭えない。
 ただこれがよくある普通の音楽モノだったりすれば、かつて音楽に絶望した人物が今一度その素晴らしさに目覚め~とかなるんだろうなと思うのだけど、こんだけ年数かけて築いてきたOVERDRIVEの最終作、そして唐突に再び現れた瀬戸口シナリオなわけだから、どういう展開してくるかは本当によくわからない。なんなら花井の言葉はスタッフ陣の胸中を代弁してるんじゃないかって思ったりもする。
 とにかくまあ花井が普通にキャラとしてユーモアもあっていい感じなんで、こいつがお話をキャリーしてくれれば一安心かなってからの最後のあれ。マジでヤバいね。

 また主人公についてだけど、こいつはこいつで結構イカれてるところがしばしば。てかジュブナイル系にあるオタクが好きな感じの要素がめちゃくちゃ多いよねって思う。医者になるっていう敷かれたレールに疑問を抱いているところとか、なんでも平均以上はできるけど一位は取れたことがないってとことか、急に小説書いたりバンドに興味持ち始めたりとか、素人がギターの練習に一日十八時間かけたりだとか、真面目くんかと思ったら意外と面白いやつだな?って感じ。公式のキャラ紹介にも「真面目そうに見えるけど駄目なヤツなのかもしれない。あるいは、悩める若者」とあるぐらい。何歳になっても悩める若者気分のオタクはたぶん結構愛着が持てるタイプの主人公だと思う。

まとめ

 とりあえず一発やればおもしれーわこれってなるんで、興味ある人は触っとけばいいと思うよ。本編発売は2019年春。クラウドファウンディングはとうの昔に目標金額達成だけど募集は継続中。あと言い忘れてたけど三日月のオナニーに早く色をつけてくれ。

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