オタクは世界を救えない

『猫狩り族の長』感想、今の麻枝准に期待していないなら絶対に読まないでください。中身がつまらなすぎてほぼ100%その場で後悔してしまいます。

猫狩り族の長

 ラノベというにはエンタメ性に欠け、文芸と呼ぶにはあまりにも稚拙な文章。文学と並べれば誰が言ったか小説家失格麻枝版人間失格。始めたいと思います。

良かった点

 一ミリも褒めるところがないと言えば嘘になるかもしれないので一応触れたいと思う。

 今作はかなり自伝的な要素が強い。死にたがりの天才作曲家というキャラは明らかに麻枝准本人のことだし、作中で随所に現れる現世への恨み辛みは彼の意見そのものがかなり反映されてるような気がする。そういう意味では帯に書かれている「本当に思っていることを書きました」というコメントも信憑性があるし、ヒットメーカーであるクリエイターが売り上げ度外視で自分のエゴを貫き通した生々しい作品、と考えるとそれだけでもかなり価値があると思われる。

 あと、変人の十郎丸に対して時椿がやたらと凡人、というか何も考えてないぼんくらだったという対比自体も悪くないように思う。十郎丸の抱える哲学者めいた悩み、それを解決するのではなくて寄り添ってくれる理解のある彼くん存在がいることこそが重要なのだというテーマ性、そんな存在がいてくれるというだけでも生きる意味を見出せるような死にたがりの不安定さ、もとい麻枝准がそういう存在を求めているのか? という話だったように思える

 それから、音楽ネタのくだりは麻枝の知識が光ったような感じがしてちょっと読んでて楽しかった。ただの変人で天才肌だと思われてた十郎丸がちゃんとお勉強して知識を身に着けていたことに対する関心、見方の変化もそうだし、なによりセンスだけでエロゲ曲作ってきて音楽理論ボロボロだとか馬鹿にされてた麻枝がちゃんと音楽人してるのもある種の感動を覚える。

 最後に、かなり単純ではあるけれど、最終的に百合で解決しようとしたのも嫌いではない。キャラパワーがもっとあれば終盤はそれで食っていくこともできたかもしれない。麻枝准には珍しい女主人公モノというのもあって、その手のものが好きな人間なら食い付きそうな感じはした。

悪かった点

 かなり多い。

 点数をつけるなら間違いなく赤点だし、Amazonでレビューしようものなら星一つになると思う。俺は麻枝准の中での最低傑作が『神様になった日』だと考えていたのだけれど、今作はそれといい勝負。苦しめられる時間が短かったという点で『猫狩り』の方がマシかもしれないが、もし同じ尺だやってたらこっちが断トツでKOM(クソ・オブ・マエダ)になってたかもしれない。マジのガチでそれぐらいつまらなかった。書いてたら昨日冒頭を読んでた頃の怒りがぶり返してきた。こんなのに税込み1,771円も払ってんだぜ? 信じられるか?

 とりあえず悪い点は一つずつ挙げていきたい。挙げきれるかわからないけど、たぶん麻枝が小説を書くのはこれが最後になるだろうから出来る限り拾っていきたい。

文章力

 一応これは麻枝初の“文芸作品”らしいので、アヘアヘ三行しか活字読めないマンではなくきちんとした大人の男性として文章を評価していきたい。

 ゴミです。

 冒頭でクソを見せられたからその後のすべてがウンコ色に見えただけ説が一パーセントぐらいはあるけど、そうじゃなければ冒頭数ページで麻枝准の絶望的な文章力がだいたいは理解できると思う。
 まず語彙が少ない。冒頭で猫がじゃれ合っているのをいちいち地の文で解説してくれるのだけど、小学生が頑張って風景を描写しているようにしか見えない。もうちょっとそれっぽい文体、それっぽい言葉遣いで情景を描写してほしい。どちらの猫が上に乗っかっている、今度は上下が入れ替わっている、パンチを入れた、ワンサイドゲームになっている等々の弱々しい文章力を読んでいると本当に反吐が出そうになってくる。俺も人のことを言えない駄文を書き連ねる民だけど、これはさすがに酷い。ラノベは小説じゃない厨に怒られるレベルで酷い。そもそも猫の描写が必要とも思えないし。

 まあ文章力とかいう曖昧なものについて語るのも難しいけど、読んだ奴はだいたいわかってくれると思う。なろう系でこれならまだ許せるけど、文芸を名乗って散々天才クリエイターだの煽って、気取った表紙とカッコつけた雰囲気からウンコぶりぶりし始めたら誰だって笑ってしまうと思う。いや、まあ、実際読んだら笑えないぐらい苦痛な文章だったわけだけど。

 でも実際よくあるんだよな。文章下手だけど頑張って小説を書いた人が陥る罠として、“描写”をしようとして駄文を増やしてしまうこと。ぶっちゃけ文章上手ければ無駄な文章でもそれっぽく見えるんだけど、如何せん下手くそが書くと必要なものまでゴミに見えてしまうので、不必要な情景描写でも書こうものなら無能な働き者が如く厄介な存在になってしまう。だから下手くそが頑張って情景描写した小説より、エンタメに振り切って台詞まみれになったラノベの方が全然潔いと俺は思うんだよな。下手な描写は書けば書くだけマイナス。いっそ何も書かない方が面白かったまである。

モノローグで解説するな

 Charlotteのときに散々思ったけど、まさか媒体が変わっても同じことを感じるとは。

 今作の主人公はやたらと地の文で解説を入れてくる。一番ヤバいと思ったのは何の脈絡もなく地の文で「あたしに関しては常に物事をフラットに考えていて~~」とか語り出した瞬間。そんなに自分語りしたいならいっそステータスオープンしろ。会話文の中でキャラの描写をしろとはよく言われるけど、台詞の間に無理やりキャラ紹介を挟むのは違うだろ。

 それから十郎丸に対しての評価とかもそう。ただのイタい人みたいな自分語りをしている十郎丸に対して主人公が地の文で「それはあたしには想像もできない世界だ……」とか「常人には想像を絶する苦痛なのだろう……」みたいな解説入れてるとマジの草が生えてくる。まさに人力設定資料集。ごちゃごちゃした長台詞の後に主人公が解説文を入れてくれるので、俺は十郎丸のくっせえ自分語りを読み飛ばすことで作中のテンポを加速させることに成功した。
 ※ちゃんとした話をすると、キャラ描写は直接的な言葉で〇〇だ……と解説するのではなくて、エピソードとかを持って読者が自然とそう感じるようにして欲しいという話です。

 あとこの際だから言っておくけど、十郎丸がやってたようなクソ長台詞はよっぽど上手い作家とか何らかの意味がある場面ぐらいでしか好きになれない。長台詞にすることで狂気感とか本気感とかまくしたててる感とか出そうとしてるのかもしれないけど、そもそも俺は長台詞を読み飛ばしがち。だって読まなくてもストーリーに支障ないし。だいたいつまらん上に面倒だし。せめてもうちょい魅力的な文章だったら読む気も出たかもしれんが、中学生が俺ガイルの影響で小説を書き始めたぐらいの技術でそんなもんを書かれてもまったくモチベは上がらん。いい加減やめてくれ。お前がキーボードを叩くたびにオタクの人生が無駄になってることを知った方がいい。

二十年前から変わらない価値観

 伝統の死生観。フィクションでは珍しくもない死にたがりの変人と、アナログな価値観で自殺を止めようとする凡人。

 もはや構図自体が古すぎる。

 まあ死にたがりの変人は、百歩譲っても許そう。最近死にたがりのなんとかみたいな、自殺志願ボーイみたいな、そんな感じの小説が出てたりして大昔から鉄板のネタだったとしてもまあ許そう。
 どっちかというと気になったのは、自殺を止めようとする主人公。
 まあ平凡だよ。自殺はよくない。それはありがち。でもぶっちゃけフィクションの中じゃ使い古されまくったコンテンツだし、どっかで捻らないと平凡にすらなれない。もはやメタが回って最近じゃ「自殺する前に〇〇してくれ!」だとか「自殺するぐらいなら俺と〇〇になってくれ!」とかそういうのが出始めてるぐらい(ソース無し)なのに、普通の価値観で自殺はよくないですよーなんて言うだけの人間とかもうなんて反応すればわかんない。死生観とかいうワードで生きる死ぬを語ってるだけの作品は00年代で終わってるんだよ。

ギャグ

 年々衰えを見せてはいたが、まさか一回も笑えない作品が生まれるたのは結構ショックだった。俺はみんなが寒い寒い言ってた神様になった日の麻雀回だって割と好きだったんだぜ。それでも今作のギャグはあまりにもヤバすぎる。M-1で予選一回戦落ちする芸人よりもつまらないと思う。見たことないけど。

 どの辺がつまらないかというと、なかなか説明は難しい。要するに面白い点がなかったという話だから、悪魔の証明に近い。(初めてブログで悪魔の証明なんて言葉使ってみたけど、ちょっと中二病的で緊張しますね)
 強いて説明するなら、主人公が天に向けて唾を吐きかけるお決まりのギャグ。これとかボイスと映像ありきのギャグだろうと思う。たぶん映像付きでもつまんなかったと思うけど、活字だけだと最初とかなんで伸ばし棒いっぱいついてんだろうぐらいにしか思えなかった。意味不。しかも天丼どころの騒ぎじゃないレベルでこのギャグが繰り返されるからたまったもんじゃない。どんだけ同じネタ擦るんだよ、お気に入りの同人誌でもそこまで擦んねえわ。

テンポの悪さ

 いい加減麻枝関連の記事だと書き飽きた。序盤から中盤にかけて、伏線を張ったりストーリーを転がしたりキャラ描写の積み重ねを行ったりという要するにストーリー上の意味がある要素がほとんどなく、ひたすらどうでもいい会話文やエピソード、子供向けアニメの通常回のようなあってもなくてもいい話を延々と繋げて尺を無駄にする。ぶっちゃけ全八章ある中で半分ぐらいはなくても話が成立すると思う。あと残りも全部つまんないからなくていいと思う。

 特に小説という媒体になったおかげで、会話文の無駄の多さがより露呈しているように感じる。とにかく会話が長い。ギャグ的にもつまらないしストーリー的にも無駄だし、まったく面白くない掛け合いを無限に読ませられて退屈どころの騒ぎじゃない。賑やかな掛け合いはキャラの魅力が重要なノベルゲーにおいて無意味でも歓迎される節があるけど、残念なことに麻枝は2015年の『Angel Beats! -1st beat-』を最後にゲームシナリオからは引退している。そりゃ心臓も止まるわ。

 

ありきたりなストーリー

 死にたがりのヒロインと自殺を止めようとする主人公が出会い(起)、二人はしばらく行動を共にする(承)。約束の期限が来るとヒロインは主人公を残して去ってしまう(転)が、それを追いかけた主人公が告白することで二人は結ばれる。と思ったらやっぱりヒロインが去ってしまい、それをやっぱり追いかける主人公がヒロインを見つけてクライマックスを迎える(結)。その後わけのわからない超展開に突入する(謎)。

 結局普通に自殺止めるんかい! というのが最初の感想。いや普通すぎてなんも言えん。むしろ王道でマシだったまである。去っていったヒロインを追いかける主人公の図はどこにでもある奴だし、一度結ばれたと思ったらまた去っていくのもどんでん返しを多用したがるラノベでありがちな二重底。
 ヒロインがツイッターで呟いてる内容を見るのも、昔だったら日記とかで見たりする流れとかですごく見覚えがある。でもここまで唐突にご都合的なツイッターアカウントを見つける流れはなかなかないと思う。

ラストは意味不

 なんでいきなり転生してんねん。死ねや。

 まあ、あんなに自殺したがってたのに何十年も主人公のことを待ち続けるヒロイン、というのがやりたかったんだろうけど、さすがに強引というか意味がわからないよね。麻枝だからループもの感覚でワンチャン許してもらえるかもしれんぐらい。あと猫狩り族云々とか、わざわざ最初に猫の長のニュースを読むくだりとかも、別に伏線とか上手い繋がりになってるわけじゃないしそもそも猫狩りどうこうがダサすぎのタイトル回収したいだけ感満載で超寒かったからなんじゃこりゃっつってたら終わった。でも最後の「明日はどこに行きましょうね」は明日が来るのを嫌がってた十郎丸がちゃんと幸せになれて終わったことがわかる綺麗な締め方だったからちょっと良かったよ。

絶望が浅い

 あさあさのあさりご飯。

 十郎丸の絶望がただの中二病にしか思えんぐらい浅かった。なんか不幸自慢だかADHD自慢みたいなこととか、自分実は超人的な反射神経持ってるんですとか他人とは思考回路が違うんですみたいなこととかめっちゃ語ってくるけど、基本的に臭い自分語りな上にこれを麻枝の自伝的なサムシングだと捉えたら「いい年こいたおっさんなのに――!!」って言いながらお空にいる麻枝准に唾を吐きかけそうになる。

 これもキャラ紹介の地の文解説と同じで、単純に台詞や地の文で行われる「私こういう人間なの……」「この人はこういう人間なんだ……」っていうただの説明だから浅く思えてしまうんだよな。「あーそりゃ死にたくなるわ」的なエピソードを一発くれれば感情移入しやすくなるのにな、これじゃ飲み会で武勇伝を披露するおっさんと変わらないよ。

 それから一番納得がいかなかったシーンが、十郎丸が昔の相棒の結婚を耳にして絶望するシーン。本人曰く、近しい人間の幸福を素直に祝福できずに嫉妬している自分は人としておかしい精神異常者なのだということなのだけど、それぐらいなら結構いると思う。たぶんこれ麻枝の実体験なんじゃねーの、あまりにも人間味があるし。いい年こいた独身男性が友人の結婚を素直に喜べないとかむしろあるあるな場面でしょう。それを魂の牢獄だとか生きている世界が違うだとか表現するのはあまりにも視野が狭すぎるとしか言えない。かくいう俺も友人がクラスメイトと付き合い始めたって話を聞いたときに目の前が真っ暗になって気付いたら教室が血まみれになってたんだよね、俺、社会にいてはならない存在なのかも(苦笑)

ワードセンスがゴミ

 まず猫狩り族ってワードがダサい。意味もよくわからない。なにが面白いんだ?

 次に時椿で笑えるのがよくわからない。そんなに相撲みたいか? いうてちょっと口に出してみたらたしかに珍しい感じだったからこれは許してやってもいい。

 十郎丸。これはよくわからん。しかも一応ヒロインの名前だからな。かっこよくない、可愛くない、面白くない、そもそも五郎丸をオマージュする意味がよくわからない。

 ばっきー。まあどうでもいいけどじっちゃんが便利キャラにもなりきれない中途半端な役回りだからこの呼び方もめちゃくちゃダサく聞こえる。
 そういやじっちゃんが十郎丸の言葉に対して「それはデカルトやな、紛うことなきデカルトや」とか言ってるのがミルクボーイで再生されて駄目だった。あと麻枝、Charlotteでもちょっと思ったけど哲学者の名前出せば高尚な雰囲気が出ると思ってないか?

値段が高い

 ケツ拭くには高すぎる。