オタクは世界を救えない

『スーパーカブ』感想、イキリオタクと燃え盛る炎の大地

スーパーカブ【電子特別版】 (角川スニーカー文庫)

 くだらない理由で作品を燃やしてる場合じゃない。俺たちが議論すべきはどの作品が面白くてどの作品がつまらないかだろう? オタクなら法律の違反よりもストーリーの矛盾を指摘しろ。炎にまみれて踊り狂う俺の叫びを聞いてくれ。

ないないの女の子

 俺はdアニメストアで一話のサブタイトルを見た瞬間に思いを馳せた。自己肯定感の低い主人公、持たざる女、灰色の世界。オタクは大人しい女に弱いという習性があるので、小熊に青春の香りを感じ取って俺はこのアニメを視聴した。

 実際一話はかなり上手い具合に出来てたと思う。カブのエンジンが入ったところで今までモノクロだった画面が色付き始めたのは既出ながらもエモい演出だったし、静かに淡々と主人公がカブにハマっていく様子は雰囲気アニメとして悪くない評判だった。

 カブに乗るようになって少しずつ行動範囲が広がり、友達が出来たりバイトを始めたり、新しい場所や新しい出会いに触れる過程は、この作品の方向性を表す構成としてかなりわかりやすかったし、そういう優しい雰囲気に浸っていたオタクはきっと俺だけじゃないはず。

 それから小熊が可愛らしいのも強い点の一つ。というか礼子すら序盤は大して活躍しないし、主人公の一人語りがメインの話で主人公がちゃんと魅力的なのはかなりの長所だろう。顔がいい、オタク好みする、けどほどよい行動力、微妙なコミュ障感、説明書片手におっかなびっくりカブとの距離感を詰めていくその仕草。この辺がアニメ『スーパーカブ』を牽引する魅力だったと思われる。

「無理だと思ったことはやらない方がいい。怖がりながらカブに乗ると、カブもこっちを怖がってシートから放り出したりする」

 いきなりどうした? 二人乗りですっ転んで頭でも打ったか? と困惑する豹変ぶり。そんな七話を視聴してからこのアニメへの味方が変わってしまった。
 ※この感想は七話時点での感想です。

まあ七話のファーストインプレッションは小熊がよく喋るようになったなで、次からは喋るたびに自己主張が激しいなだった。

 そもそも文化祭で困ってるリア充たちを主人公たちが問題解決する、という流れがなんか陰キャの妄想臭くて(文化祭ライブでボーカルに抜擢されて大人気になるよりはマシだが)、主人公が人助けするためというより自己主張のためにカブでの配達を買って出たように思えて見ているだけでもキツかった。
 事あるごとにカブ自慢とでも言うべき台詞を吐くのもどうかと思った。趣味の話題でいきなり饒舌になるオタクくんかよ。まあそれだけだったら微笑ましくていいかもしれないが、上述した新キャラに対する謎のカブ哲学マウントを見た時点で俺の感情は嫌悪感に振れた。
 成り行きでクラスを助けることになって人から感謝されることに困惑する、とかなら可愛らしいストーリーだと思う。しかし俺には、困ってるクラスメイトを助けてやったという偉そうな態度、自分に興味を示してくれた相手に対する無礼な態度、そういうところばかりが目についた。

 俺はこのアニメを、主人公がカブを通して成長するストーリーを描いた作品なのだと思っていた。どうやら違うらしい。カブという他人にイキれる武器を手に入れた主人公が本性を露にするアニメというのが、この作品の趣旨なんじゃないだろうか。

 思えば、アニメ序盤は主人公の単独行動がメインだった。それが礼子と仲良くなってから、やたら礼子に強く当たる台詞が目立った。仲の良い間柄でよくある一見すると冷たい対応であるが、ついこの前までレンジに並ぶのよりも友人との昼食を優先して冷たいカレーを食っていた人間にしては随分な変わりようである。
 修学旅行に原付で行って合流するのも冒険感があってよかったが、それも引っ込み思案の女の子がやるから風情が出るのであって、法律無視のイキリオタクがやっても自意識の表れ、ただの目立ちたがり屋と思われても仕方がないような気がする。

 あとあれ、七話最後の椎を表現したポエムはめちゃくちゃ浮いててどうなんだろうと思った。ついさっき何も出来ない臆病者呼ばわりして突き放したクラスメイトを、唐突にモノローグで水色だとか夏空だとか言い出すのはどういう心境なのさ。

原作はもっとイキってるらしい

 どうやら話に聞くと、原作の小説は元々こんな感じらしい。雰囲気重視の清楚な作風はアニメが勝手にやってるものであって、原作自体は法律もモラルもクソくらえなアンダーグラウンドでの生活を描いた作品だというのだ。なるほど、要するに化けの皮が剥がれたというだけのことらしい。タバコかセックスぐらいしか学生の楽しみがないクソ田舎で、他人に誇れる唯一の武器を手に入れた主人公がイキり始めるのは自然の理。ここだけ聞くと、作風を勘違いしたアニメの方針が悪いような気もするが、果たして……

まとめ

 火遊びは慎重に。