オタクは世界を救えない

劇場版『映画大好きポンポさん』感想、オタクが切り捨ててきたものの話をしよう

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 この記事を書くにあたって一番残念なのは、ブログ記事では90分の尺を再現するオマージュができないことですね。

面白かったな

 原作一巻だけじゃそもそも90分にも足らねえだろとか、オリジナル部分で台無しにされないだろうかとか、そういう不安が消し飛ぶぐらいには面白かった。期待通りとはまさにこのこと。
 特にオリジナル部分は原作の要素を広げつつ、ストーリー的にもテーマ的にも大きな盛り上がりを作ってくれてとてもよかったように思う。原作の良さに単純な+αでより面白くした作品で、かつ90分に収めている非常にまとまりの良いお話だった。

 先にストーリー以外の部分に触れておこう。絵は普通に良い。可愛さとかよりも、表情の動きとかが多くて見ていて楽しかった。
 声は別に普通か、ちょっと物足りない感じはした。俺が萌え声に慣れてしまったせいかもしれんが。
 音楽はかなり良かった。漫画で読んだシーンでも劇伴付きで見るとアニメという媒体の強さを感じたし、挿入歌は多い上にどれも強かった。たとえば~のやつ、好き。ただちょっとボカロ臭くて気になる感じはした。

 というわけで、あとはお話の話をしたいと思う。

 テンポ◎

 早いね~いいね~

 原作分の尺を怒涛の勢いで消化していくため心配になるぐらい。個人的にはナタリーがオーディションに秒速で落とされるのがすごい好き。
 ワイプを多用してシーンを飛ばすのとか、〇〇日後の字幕で飾り気なくカットしたり、早送りで演出してみたりと、尺を縮めるために色々やってるのがやっぱりポンポさんというコンテンツだと目について良い気分になったりする。
 ちなみに原作分のエピソードはだいたい三分の二ぐらい。時間でいうとだいたい50分ぐらいで映画を撮り終わって、60分ぐらいからはジーンくんが四苦八苦し始めるので、残り30分ぐらいがオリジナルとなる。でもオリジナル部分は時間以上に詰まってて、適当に90分に帳尻合わせるためのパートじゃないのが好感。

何かを切り捨てること

 これねえ、原作の「90分」というテーマ性から膨らませて「夢を叶えるために何かを切り捨てるということ」っていう一本の映画作品に相応しいテーマを作り出してあってすごい。なんだったらこれのおかげで俺は原作より映画の方が好きになったまである。

 映画オタクのジーンくんは、映画のこと以外には何もないクソ陰キャ童貞。そんな彼が映画を編集するときに行き着いた最適解が、「大事なものを切り捨てること」。ナタリーもといリリーの初登場シーンを切り捨てたり、みんなで撮った思い入れのあるシーンを切り捨てたり。そこまでしてでも「その映画を一番見てもらいたい人」のために焦点を絞るというのが彼の答え。
 で、この行為がジーンくんの人生そのものも肯定しているのが非常に綺麗。

生きることは選択の連続だ。会話を切れ、友情を切れ、家族を、生活を、切れ、切れ!
ただ一つ、残ったものを手放さないために、諦めないために!

 映画以外のものを(それが意図的だったかはともかく)切り捨ててきたジーンくんの執念が、肯定される瞬間がこれ。幸福は創造の敵。大事な何かを切り捨てることがこんなに熱く肯定される機会はなかなかない。

 ついでに言うと、ジーンくん以外の主要人物も結構切り捨ててるタイプ。ナタリーは普通に暮らしてりゃ平凡ながらも幸せだったであろうとうもろこし畑を切り捨ててるし、ポンポさんは普通の思春期を切り捨てて幼少の頃から映画業界に入り浸ってる。だからジーンくんの熱い編集行為が、いつも映画を見ながらエンドロールの前に席を立つポンポさんの青春時代を全肯定してる感じがしてすごい好き。

 なので、
 映画を編集すること=思い入れのあるシーンをカットすること=夢を叶えるために大事なものを切り捨てること
 っていう流れがかなり上手くキマッてた。すごい。強い。

アラン! 誰だお前!?

 アラン! 俺はお前が出てきた瞬間、ジーンくんを学生時代にいじめていたクソ陽キャだと思ってたよ! ごめんな! クソナードが映画監督になって昔の陽キャを見返す安易なスカッとジャパンを危惧してごめんな!

 ということでアランくんことうんこブリブリ社内会議を全国ネットにお漏らしマンの話しよう。

 オリジナルキャラはぶっ叩かれるのが世の常なので、彼が初登場時から胃を痛めてたのはもう仕方のないこと。だから取引先のおっさんをGolf it!でボコボコにして叱られた彼のことを俺は嫌いになれない。でもリア充で大手企業に就職してるしやっぱ嫌いかも。けど仕事上手くいってなくて会社辞めようかとか考えてるのは俺と似てるからむしろ好感かな……

 というわけでアランくんはクリエイターサイドではない一般オタクの鏡のような存在。まー正直言って彼の見せ場である会議シーンとかはなんかお涙頂戴というかどっかで見たことある感じがしてそこまで面白いかって言われるとうーんなんだけど、今までジーンくんが切り捨ててきた幸福をすべて持っていた、いわばジーンくんとは正反対なはずの彼が、一度コケて、ジーンくんに影響を受けて新しいことを始めるという王道で定番なストーリーは悪くない。逆に彼のエピソードの王道感は、ジーンくんみたいな尖った執念を持ってるわけではない普通の人間でも、この映画に影響を受けていいんだぜ的な制作側のメッセージを感じる。(というか試写会の後のアフタートークでそう言ってた)。

ダルベール=ジーンくん

 原作だと単なる作中劇だったマイスター。及びその主人公であるダルベールが大活躍する映画版ポンポさん。
 リリーがナタリーの当て書きとは言われていたものの、それに加えてダルベールもジーンくんの当て書きであるかのような関係性がとてもいい。ダルベールの過去が掘り下げられていくと同時にジーンくんが何かを切り捨てる覚悟を持っていくのがいいし、ジーンくんが映画を編集することで、家族を切り捨てたダルベールが再び前向きに音楽と関わっていく作中劇の厚みも増していくのが上手いね~って感じ。

夢を叶えるために、切り捨てたものが足りないんだ

 この台詞好きですね。切り捨ててるのに必要なんですよ。これ。要らないから切り捨てたんじゃないんですよ。ちゃんと「それを切り捨てた」っていうエピソードが、その映画にも人生にも重みを増してくんですね。深いね~。

 あとあれ。映画マイスターの序盤、ダルベールがクビになるまでのエピソードって脚本段階だとあんな長かったんだね。ジーンくんがハァハァしながら、「ナタリーに出会うまでで一時間半か……」とか言ってたとき爆笑した。それだけ思い入れのあるシーンが多かったんだね。

まとめ

 俺も社会性、切り捨ててくかぁ~

 

 ※一応原作のシリーズまとめを置いておくやつ

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