オタクは世界を救えない

『サイダーのように言葉が湧き上がる』感想、そんなに言うほど湧き上がらない

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 CMで見たりみなかったことによりちょっと興味があったオリジナル劇場アニメ。一部では客入りが某ワニ並だとかなんだとか言われてあまり評価の芳しくない今作を見に行ってきたので、その話をしたいと思う。

はじめに

  実を言うと、公開二日目には既に見ていて、いつもだったら帰ってすぐに記事を書くんだけど今作は一週間ぐらい記事にするかどうか悩んでた。理由は言わずもがな、あんまり面白くなかったから。
 客入りもよくないみたいだしここで批判的な記事を書いてもただの悪口だなーと思って気分が乗らなかったのだけど、せっかく見たので簡単な感想でも残しておこうというところ。

 総評としては、良い言い方をすると、さっぱりしたボーイミーツガールで夏休みに見るにはぴったりの作品。悪い言い方をすると、地味すぎて記憶に残らない。サイダーってより微炭酸って感じ。
 俺はこういう雰囲気の作品が嫌いじゃないけど、良くも悪くも大味な劇場作品が多い最近の中だと、わざわざこれを選ぶ必要があるか? と首を傾げざるを得ない出来でした。

テーマ性について

 ストーリーは地味だけど話のテーマはしっかりしていてちゃんと読み込むと面白い!――ということもない今作。正直言って、テーマ的にもどっちつかずで要素が薄いと感じた。

 公式のあらすじを見ると、いつもヘッドホンを着用している思ったことをなかなか口に出せないチェリーと、矯正中の前歯を隠している見た目にコンプレックスを抱えたスマイルが出会い、言葉を交わしていく……とある。
 要するにコンプレックスのせいで上手く自分を表せない少年少女の物語なわけですね。青春モノって感じ。その壁を破るのが今作だと俳句で、タイトルもちゃんと五七五になってて作中で使われている。

 ただ、個人的には、二人のこのコンプレックスの取り扱いがすごくどうでもよく感じた。なにしろ二人はこのコンプレックスのせいで特に苦労しているということはない。チェリーは俳句会で発表ができないぐらいの上がり症だけど、友達とかはちゃんといてバイトも出来ている。ヘッドホンで外界の音を遮断するほどの社会不適合者には思えない。スマイルもマスクを付けながらだけど配信者として数字を伸ばしているし、出っ歯を気にしてるのは自分だけで、特別な不利益を被ってるような描写はない。

 二人のコンプレックス描写は薄くて別にさほど重要には見えないし、二人が仲良くなることにも、今後のストーリーにも、そのコンプレックスが壁として立ちはだかってくるようなことはない。要するに、コンプレックスなんてなくても話が成立してしまうので、そもそもテーマとして成り立っていないように思う。

 まともに喋れないから俳句で思いを伝えるというコンセプトは非常に青春らしくて好ましいのだけど、二人が仲良くなる過程に障害がなさすぎて、これだと単に俳句好きな少年と配信者が付き合いましたというだけの話になってしまって大変面白くない。特になんだかなあと思ったのはチェリーが普通に悪ガキたちとつるんでたりバイト先の人と会話できてたりすることで、やっぱり設定としてももっとわかりやすくコミュ障な方がよかったなあと感じる。

レコード探しについて

 ストーリーのメインともなるこれだけど、ぶっちゃけ設定と絡んでなさすぎて引いた。チェリーの前歯ともスマイルの出っ歯ともなんなら俳句とも被ってなくてマジで二人が仲良くなるためのイベントにしかなってない。これを話の中核に据えた人間はセンスがなさすぎる。

 まあ一応、元々はフライングドッグ10周年を記念する作品。一説によると当初の企画では音楽の無くなった世界で音楽探しをするファンタジックなストーリーだったらしいので、その辺の音楽部分が残ったストーリーなのかもしれない。まあパッとしないことには変わらないけど……

終盤の展開について

 引っ越しは前々からわかってたのになぜか情報開示を引っ張ってヒロインに知らせないのとか、そこから当日に引き返してきてお祭り中に再会するのとか、なんか1クールアニメで終盤に無理やりシリアスを作ろうとする流れを思い出してしまって微妙だった。

 この際引っ越しをスマイルにだけ黙っていたのには目をつむるとして、そもそも二人は仲違いをしたわけでもないし、なんでこれがシリアス要素になるのかがわからない。普通にごめんその日はいけないんだで終わりじゃない? そんなに深刻な顔して別れる必要ある?

 まあでも、戻ってきたチェリーがスマイルを見つけられなくて舞台に乗るのは王道って感じがして良いと思った。ちゃんと俳句が湧き上がってたのも良い。ただ言葉を連呼してるだけでいまいちテンションが上がりきらなかったのは少しあるな。演技的にも派手さがなかったし、ストーリー上でのカタルシスも全然なかったから、このシーンを加味しても「言葉が湧き上がる」ような作品と呼ぶには少し物足りなかったと思う。

細かい粗について

 地味な上、特別丁寧というわけでもないのが今作の痛い点だと思う。

 たとえばよく言われているのは、序盤でビーバーが暴れまわるシーン。派手でポップな感じがしてこれ単体で見るならいいのだけど、普通に危険なこの行為が作中だとほとんど追及されてないのとか、アイドル好きなはずのデブが盗品のアイドルグッズを求めているという意識の低さ、そしてコミュ障のチェリーがそんな二人と仲が良く、その理由の描写もないというなんともいえない設定のルーズさ。

 上でも書いたけど、引っ越しに関して同じバイト先になったのにも関わらず事情を知らないスマイル。

 それから、フジヤマの爺さんが持っていたレコードを探しているのに、その身内の娘には何も聞かないご都合展開(死んだ奥さんのレコードだというのは、聞いていれば一発でわかった)

 あとはレコードの取り扱いについても、結構がっつり手で持つんだな……というのは思ったし、割れる理由もコメディチックに誤魔化してたけど結構なやらかし。接着剤で治すシーンもくっ付ける→ポロッ、を繰り返しすぎて逆にギャグなのかと思ったぐらいでなんかずれてる印象。

 これで細部がきちんと作られてたりテーマ性がきちんとしてたら、エンタメ性が低くてもそういう作風なんだと褒められるところだったんだけど、こういう雑さも加味すると単純にクオリティが低いだけの作品に思える。そんな感じ。

まとめ

 パンフレットのネタはすごく良いと思った。