オタクは世界を救えない

映画『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』感想、もし空が飛べたならお前の尺を90分にしてやる

見てきたので始めたいと思います。

『デデデデ』とは

 高校生が好きそうなジュブナイル系と大学生が好きそうなサブカル系を得意とする浅野いにお原作の漫画『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』は、全12巻で完結。それを映画化したのが今作。
 浅野いにおの代表作といえば『ソラニン』『おやすみプンプン』だけど純粋なアニメ化はイメージにないので、アニメ作品的には今作が一番出世作なのかもしれない。
 『デデデデ』は浅野いにお作品の中でもサブカル寄りで、随所にネットスラングやまとめサイトに載ってそうな時事ネタ、話自体も宇宙人への差別ネタとかが関わってくるのでそういうのが苦手な人にはとっつくにくい。かと思えば主人公たちは高校生、大学生と成長し淡い少年少女時代の思い出が闊歩する大切な何かを守ろうとするハートフル青春物語。

 見方によって臭いだけの意味不明作品から奥深い高尚な傑作品にまで幅広く姿を変える今作。レビューによって美的センスを試される戦いが今、始まる――

 

ストーリーについて

 つーか長くね?

 というのもシンプルに尺が120分もある。アニメ作品としては珍しい。しかも二部作のうちの前章なわけだから、相当やる気の入った作品だということがわかる。
 原作が12巻なのでそれぐらいの尺が必要といえば必要なのだろうけど、正直なところ尺が長い故に展開が遅さが気になってしまった部分はある。元々原作もスローペースな展開で、特に序盤は雰囲気作りに執心しているためぶっちゃけ退屈に感じる時間は長い
 まあそこは作風みたいなところもあるので、一旦置いておく。

 ストーリー的にはほとんど原作通りで、だいたい3,4巻あたりのところまで。序盤はJKの日常みたいなんで、中盤に友人の死、終盤におんたんの過去編。で、高校編が終わって後章からは大学編、みたいな感じ。

 過去編は原作だともうちょっと後の方でやるやつなので、わざわざ前章に持ってきたのは意味があるのかな? 山場がなさすぎて前章に無理やり持ってきただけの可能性もあるけど、後章に別の山場を持ってきてるっていうのもワンチャンある。
 おんたんの過去編が出てくるシーンで大場くんが言っていた「彼女もシフター……」みたいな台詞は原作でもなかったはず。原作自体もセカイ系によくあるパラレルワールド展開だし、なんか展開を変えてくる布石かもしれない。

 まあでも改めて思うのは漫画向きなストーリー展開だなというところ。日常編から徐々に変わりゆく環境というのを描きたい作品なんだけど、映画みたいな2時間にエンタメを詰め切るメディアだとただの冗長展開にしかならない。特に前後に分けてるから前章がその割を食ってる感がある。キホが死んだときも、普通の映画だったらそこから加速すると思うんだけど、結局そのパートが暗いだけで劇的に変化するわけじゃないので……

キャラとか

 浅野いにおは割とエロい女を描くので、ここにも触れていきたい。

 『デデデデ』といったら中川凰蘭と小山門出のコンビ。とりわけ凰蘭は眉毛が太いこと以外は美少女で、いつもふざけてるおもしれー女が時折見せる可愛いところが見どころな作品でもある。
 ただ正直……映画ではそこまでキャラの可愛さを出そうとしてる感じはなかった。どっちかというとコミカルな部分を強めにしようとしてるのか、絵もアニメ用に作るというより原作風味の崩した感じをかなりリスペクトしていた。声優にも声質が合っているだけの下手くそな素人を採用することでキャラ萌えを難しくし、媚びるだけではなく等身大の世界観を大事にしていこうという気概を感じた。

テーマとか

 映画になったことでテーマ性的なものがわかりやすくなったという語りやすくなった気がするので書いておこうと思う。

 まず社会的には侵略者の存在でちょっとずつ社会がおかしくなっていく様が描かれていく。門出の親とかもまさしくそれで、侵略者の影響に過剰反応する者もいれば、順応しすぎているおかしな社会全体という構図にも見える。

 そんな中、友人が死んでからトーンが暗くなるのもありがちな展開ではあるけど、良い意味で王道だと思う。ブラウン管の向こう側でしかなかった情報に、友人の名前が載るだけで一気に現実味が増してくるのイイよね。

 でもキホが死んだことは残念ながら、この作品の一番重要なターニングポイントではない。この作品でたびたび語られるのもは凰蘭と門出の仲の良さであって、その二人が話の中心である以上、この作品にとって一番大事なのは彼女たちにとっての大事なものになるのだと思う。

 凰蘭にとっての門出が、変わっていく世界の中で唯一の変わらない「絶対」であることをねっとりと描写していくのがこの前章。そしてその心意気が試されるのが後章なのだと思うと、このくそ退屈な120分が意味のあるものに思えてきたりしなくもない。

まとめ

 「おんたん」のアクセントが「ぶんたん」なのに驚いた。ずっと「のんたん」のイメージだったのに……