オタクは世界を救えない

『SELECTION PROJECT』感想、俺たちは選ばれる側だったのかもしれない

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 もはや流行というよりは定番ジャンルの一つになったアイドルアニメ。そこに参入したるは安定感のある作画に定評がある動画工房。そんなアニメについてちょっとばかり話をしたいと思う。

概要

 メインの設定は、タイトルのまんまである『SELECTION PROJECT』。アイドル志望の少女たちが全国から集まり、番組上で自らのデビューを賭けてライバルたちと競い合うというリアリティショーが話の根幹。
 また主人公の鈴音は生まれつき心臓に病を抱えていて、数年前にドナーとして心臓を譲り受けたのが憧れの初代『SELECTION PROJECT』出身アイドルであり事故死した天沢灯。そして鈴音と同じ代の『SELECTION PROJECT』には灯の妹である玲那も出場しているというのが話の盛り上げ所といったところか。

 なお、伝説のアイドルが死んでその心臓を受け継いだアイドルが主人公格にいる点、またその妹が出てくる点などは某『IDOLY PRIDE』と設定が酷似しているが、さすがに意図的ではないと思うのでこの感想では触れないこととする。

 でまあ、ストーリーの流れ話数で示すとこんな感じ。

1~2話……予選。プロローグ的な感じ
3~5話……一次審査。9人分のキャラ紹介的な
6~7話……二次審査。鈴音の心臓病の話がメイン
8~9話……最終審査。二人落とすやつ。玲那の話がメイン
10~11話……9-tie結成。番組外でアイドル活動する話
12~13話……セレプロ出戻り編。

 こう書き出してみると結構バランス良く話が進んでる感じはする。実際中身でやってることはともかく見ていて退屈になるということはそんなになかったのでその辺の安定感は中々にクオリティが高かった気がする。

 じゃあ中身の方はどうなのか。個人的に気になったところを喋っていきたい。

リアリティショーという設定について

 結構ゲスい話に持っていけそうな設定。ストーリー上でも生き残りを賭けた戦いみたいに言ってたぐらいなので、アイドルデスゲームを予想したオタクも多いんじゃないかと思う。

 しかし実際に展開されたのは、ありがちなアイドルものでのわちゃわちゃを通して全員通過を繰り返すというだけの茶番。舞台裏のドロドロを番組上で見せて~とかもなかったので、設定のオリジナリティとは特になかったかなと思う。

 一応終盤では強制二人脱落という審査があったけど、今更すぎてご都合的だな~となってしまった。落としたいだけなら最初からエールの下位何人が脱落とかにすればよかったし、話を動かすための二人脱落設定だというのがあからさますぎる。 ただ全員同数で全員通過になると思ってたので、全員脱落させられたのはちょっと意外だったといえば意外。

 まあーなんていうか、あくまでも単なる舞台設定の域を出なかったという印象がある。結局やってることは他のアイドルアニメと同じだよね、っていうのを大抵のアイドルアニメを見て思ってる節がある。

番組からの出戻り展開について

 で、これが本題。

 途中で全員脱落を食らう。これはまあ面白い。その後に全員で蹴落とし合うんじゃなくて協力し合って独自のアイドルグループを作り、番組から離れて苦労しながらも努力していく展開はかなり好みだった。レールを外れて戦う展開を嫌う人間は中々いない。番組の中では簡単に数十万とかのエールを獲得できてた少女たちが、路上ライブでたった数人に囲まれて応援に心打たれる流れも対比が上手くて感動した。なんか思い出したように出てきた再序盤のライバルキャラも良い味を出してたと思う。

 だからこそ、路上ライブをやり切った後に番組の人がやってきて「君たち頑張ってるみたいだから復帰させてあげるよ!」とか言い出したときは腸が煮えくり返りそうになったし、それをきゃっきゃと受け入れる主人公たちの能天気さにも俺は失望した。はあ?インディーズで世界を取ろうって約束したあのハングリー精神はどこにいったんだ? 現実でこんな展開があったら俺はまず仕込みを疑うだろうしたぶんバックには電通が付いてるだろうと確信するに違いない。そんぐらい安いご都合主義展開だった。

 結局のところ、これはタイトルにある通り『SELECTION PROJECT』という番組ありきの話であって、番組サイドが善として位置づけられてる以上仕方がない展開だったのかもしれない。俺はその前提を覆す展開を期待してたのだけど、恐らくストーリー的にこの出戻り展開は単なる終盤の山場でしかなくて、それ以上の重要シークエンスではなかったのだろうと思うと割と悲しい。

 さて、大人の力でプロデビューまであと一歩というところまでやってきた少女たち。ぶっちゃけ鈴音が最後に死にかけてライブまで間に合うかどうかといういわゆる「一人欠けた状態でライブするけど結局帰ってきて合流するよ」展開は初代ラブライブから語り継がれるド定番展開であって、路上ライブ系アイドルに比べるとインパクトが無なのでふーんつってたらアニメが終わった。伝説のアイドルが夢に出てくる展開はハリーポッターでいうところのダンブルドアを彷彿とさせたけど内容はあまり記憶には残ってない。

アイドルアニメとして

 単純にアイドルアニメとしてはどうだったのか、について。さすがに動画工房産というだけあって、色々と安定している、低予算でロクに動かねえ曲もショボいみたいなのに比べれば天と地ほどの差があったし、俺はアイドルアニメは最悪ライブパートさえ盛り上がればなんとかなると思ってるので、そういう点ではシンプルなクオリティはかなりの長所。
 実際顔がいい女が多くて、曲もよかった(OPが特に好き)ので、素材はすごくよかったと思う。惜しむらくはユニット曲の衣装がクソださいのぐらいか。

 あと個人的に評価したいのは、ありがちなお当番回をあまり作らなかったこと。ユニットごとのパートでだいたいをやって、あとはストーリーを進めつつキャラを作ってたのが上手だな~って感じだった。これで尺を割かれたストーリーがちゃんと面白ければ完璧だったんだけどなあ。

心臓の話について

 安いな~って感じがした。ぶっちゃけ途中で玲那が発狂しだしたのも、鈴音が移植先だっただけでそんなシリアス展開になる理由がわからないぐらいだった。番組的にはずっと隠してたっぽかったけど、さっさと明かして美談にしておけばそれだけで無限にエールを稼げたんじゃないかと思うし、この辺についてはシリアス展開を作る用の設定になってるだけであんまりお話的に語る部分は少なかったように感じる。

ババア仕事しろ

 自分でアイドル同士を蹴落とし合う番組を作っておいて出演者には優しい自分をアピールする偽善ババア社長をなんとかしてほしい。アイドル志望の少女たちを心配するなら視聴者ウケ狙った番組の構成をどうにかした方がいいんじゃないか?

 地味に主要キャラクターが多い今作だけど、とにかく全員を善人にしたくてご都合的な展開が連発している印象はあった。全員脱落したときは番組をコケにする流れなのかと思ったけど、結局復帰してセレプロ自体は良コンテンツみたいな終わり方だったのも解せない。強制二人脱落とかいう強引シリアス展開についてあの世界で批判はなかったんだろうか。

まとめ

 他人に勧められるタイプのアニメではないなーと思うけど、見てる人がいたら結構面白く語り合えると思う。

 俺は大宮駅で彼女たちが踊っているOPの映像が好きだったし、11話で自分たちが一から作った曲でまた大宮駅で踊っているシーンを見たときは結構感動したので、それだけは覚えておいて欲しい。

TVアニメ「SELECTION PROJECT」メインテーマCD

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  • アーティスト:9-tie
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